「シビックプライド」という言葉を、ご存じですか?
「」という言葉があります。シビックプライドとは、自分の住む街に対する誇りを表す言葉。住む街をより良いものに、そして誇れるものにしていこうという想いを指します。
日本にも似た言葉で「郷土愛」がありますが、郷土愛とは少し違います。郷土愛は、住民が自らが育った地域に対して愛着を持つこと。シビックプライドは愛着に加え、自分が住む街を自分が責任を持って良くしていこうという想いや、自分自身が地域の構成員であると自覚し、さらに街を良い場所にしていこうとする意志が含まれます。
シビックプライドという概念は、19世紀のイギリスで生まれました。当時のイギリスは、産業革命によって生まれた商工業によって、多くの都市が繁栄しました。そんな都市の主役として豊かになった市民階級が、新たな街を自分たちで作っていくことが社会的なミッションであり、美徳であると、考えるようになったのです。
そこで生まれたのが、図書館や公園といった公共建築、文化施設など。それまでの地域のシンボルは教会をはじめとした宗教施設でしたが、そこに新たな建築物が生まれました。市民による市民のための街づくりが、そこに住む人々の手によって行われるようになったのです。
現代のシビックプライド「I amsterdam」キャンペーン
現代ではもちろん、建築物などハード面だけではなく、地域おこしといったソフト面における行動も、シビックプライドのひとつです。
例えばオランダの都市アムステルダムでは、2003年に「I amsterdam(アイ アムステルダム)」キャンペーンを行いました。キャンペーンでは、市民を撮影したフォトブックの出版や、ロゴ入りグッズの販売、国内外での展覧会が行われ、市民や企業に「I amsterdam」のロゴが無料で配布されました。さらに、市の中心地にあるアムステルダム国立博物館の近くには幅23.5mの「I amsterdam」オブジェを設置。観光客の撮影スポットとして人気を集め、今日に至るまでハッシュタグをつけた記念写真が、SNSにはたくさん投稿されています。
街づくりというと、なんだか少しお固いイメージがあり、取り組みにくさも感じてしまいますが、このカジュアルでポップなキャンペーンは市内外に広まり、誰もが参加できるキャンペーンとなりました。市民も巻き込んだこのキャンペーンは、現代のシビックプライドを象徴するひとつの事例と言えるでしょう。
シビックプライドは、心と暮らしを満たすきっかけになる
私たちが住む日本でも、シビックプライドは注目を集めています。その背景にあるのが、人口減少における街の過疎化。街から子どもや若者がいなくなると、街から活気が失われます。すると、別の都市に引っ越す世帯が増え、人口減少にさらに拍車がかかってしまうことも。そこで国内のいくつかの都市では、街をより良いものにしようという動きが、そこに住む人々の手によって生まれています。
例えば、新潟県新潟市の上古町(かみふるまち)商店街は、若者が商店街に戻ってきて、住民が自発的に街づくりを始めた例のひとつです。1970年代に新潟駅周辺の開発が進み、新しい大型商業施設が作られたのをきっかけに商店街は衰退、シャッタータウン化しました。しかし2000年代に入り、家賃の安さや商店街の古い建物の雰囲気に惹かれた若者の出店をきっかけに商店街が再生されるようになります。だんだんと街は元気を取り戻していき、イベントの実施やフリーペーパーの発行、地域商品の開発などが行われるようになりました。人が人を呼ぶ上古町商店街は、現在ほとんど閉まっているシャッターがないとのことです。
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豊かな暮らしは、豊かな街があってこそ。本当の豊かさとは何かが問われている現代こそ、シビックプライドの重要性が増してきているのかもしれません。
今自分が住む街に、なにができるのか。今、あらためて考えてみませんか?